The reason of tears (Hayami side)

 

 

 

少年は泣いていた。

 

少女は驚いた。

 

泣きたいくらいの仕打ちを受けているのはこちらだというのに。

 

彼の零す涙が彼女の白い肌に落ちる。

 

少女はどうしていいかわからなかった。

 

今まで経験したことがなかったからだ。

 

困惑した彼女が掴むシーツを離す。

 

 どうしていいかわからなかったから…

 

少女はその細い腕を少年へ差し伸べた。

 

うつむく少年の頬を両手で包む。

 

 

 

嗚咽を漏らす少年の瞳が少女を見た。

 

溢れる涙を少女が拭う。

 

少年の唇がかすかに動いた。

 

…が言葉にはならない。

 

 

そのかわり

 

彼は肩を震わせて少女を抱き締めた。

 

その細い肩に顔をうずめて、声をあげて泣いた。

 

 

 

 

長い間泣くことすら忘れていた。

 

ただ生きるためにその手を血に染めて…

 

人間らしい感情はとうの昔に捨てたはずだった。

 

でも

 

頬を包む手が優しくて

 

抱き締める肌が暖かくて

 

だから…

 

なくしたものを思い出して、少年は泣いた。

 

 

 

 

少女が少年の震える背中を抱き締める。

 

癖のあるやわらかな髪を優しく撫でる。

 

少年が少女の名を呼ぶ。

 

何度も、何度も。

 

その度に彼女は少年の髪をそっと撫でた。

 

いつしか…彼はもう泣いてはいなかったけれど

 

少女は少年の髪をずっと撫で続ける。

 

 

 

「…舞…」

 

名を呼ばれて少女が少年に視線を移す。

 

その顔は涙でぐちゃぐちゃだったが

 

もう、瞳にあふれるような悲しみはなかった。

 

少女は小さく笑って少年の額をそっと指で突いた。

 

彼は照れくさそうに再び少女の肩に顔をうずめる。

 

 

 

それから

 

瞳を閉じて微笑んだ。

 

 

 

 

 

その記憶すら薄れて思い出せなくなっても

 

少年が求めてやまなかったもの

 

 

 

 遠い日…彼を包んでくれた暖かな腕 

 

 

 

ずっと、ずっと、欲しかったもの…

 

 

 

-今、彼女と共にここにある-

 

 

 

 

 

 

 

 fin.